お金に頼らず部下のモチベーションを上げる5つの方法

「無報酬で働いてください」と言ったら、社員はどのような反応をするでしょうか?誰も聞き入れようとしないでしょう。お金は日々の生活に欠かすことができないものです。誰もがそれを理解していますが、生活に困らない程度の給与をもらえるようになると、お金はどの程度のモチベーションになるのでしょうか?

働いている私たちにとって、モチベーションとはいったい何でしょうか?これについては、長い間研究が行われてきました。この結果、お金は最も重要な動機ではなく、あくまで二次的なものに留まる、ということがわかりました。

給料や報酬以上にメンバーのモチベーションを向上することができる方法を、以下にまとめていきます。

 

部下のモチベーションを上げる5つのポイント

1. 仕事への意義と目的を感じさせる

ヘイズのCEO、アリスター・コックスは、「仕事に意義や目的を求める人たちは増える傾向にある」と語りました。言い換えれば、「世の中に貢献したい」「社会の役に立ちたい」と考える傾向が強くなっているのです。

この背景には、新型コロナウイルス感染拡大のなか、医療従事者やエッセンシャルワーカーたちの勇敢な働きぶりを目の当たりにし、意識の高まりがあったと言えるかもしれません。自らの仕事に意味を求め、全く異なる業界への転身を考え始めた人もいるでしょう。一方で、現在の自分の仕事を新しい方向に変えて行ったり、これまでのキャリアパスとは全く異なるキャリアへの挑戦を視野に入れている人もいるのかもしれません。

これを裏付けるように、ハーバード・ビジネス・レビュー誌による調査では、「有意義な仕事ができるならば給与が下がっても良い」と回答した人々は10人のうち9人に上りました。これを見れば、仕事において目的意識がいかに重要であるかがわかります。労働生産性やリーダーシップのエキスパートであるブライアン・コリンズ氏は、「スキルの高い従業員ほど、自分の仕事が最終的にどのような影響を及ぼしているかを意識します。これが見えなくなると、仕事を辞めてしまう可能性が高くなるものです」と語ります。

このほかにもさまざまな調査によって、従業員のモチベーション向上には、仕事に意義や目的があると感じてもらうことが大切であるとわかっています。例えば、ミレニアル世代の57%は自分の仕事が世の中に良い影響をもたらすことが重要であると回答。また、従業員の評価プログラムなどを提案するグロボフォース社が運営する研究機関、ワークヒューマン・リサーチ・インスティチュートとIMB社のSmarter Workforce Institute が共同で行った2017年の研究結果によると、従業員の経験に前向きな意識をもたらす最大の要因は意義のある仕事であることがわかっており、これはほかの項目を大きく引き離しています。

では、メンバーに自分の仕事が有意義であると感じてもらうためには、何をすべきなのでしょうか。アリスター・コックスは、「リーダーが中心となって部下とコミュニケーションを取り、部下たちが自分の仕事に意味を見出せるように導いていくことが大切である」と述べています。「どんな仕事を楽しいと感じるのか、また、有意義であると思うのはどのような仕事なのかをチーム全員でオープンに話し合いましょう。」「 全員の意見がまとまったら、重要な仕事を改めて配分し直し、チーム全員が高い生産性と充実感を持って仕事ができるように対処しましょう」とコックスは述べています。

ロンドン・ビジネス・スクールで組織の研究を担当しているダン・ケーブル教授もまた、ハーバード・ビジネス・レビューの記事で、部下に仕事の意義を感じてもらうためのポイントを伝えています。同教授によると、大切なのは、自分や会社の仕事はビジネスにとって真に重要なものであり、将来も必要とされるものであること、また、メンバー自身にとっても有益なものであると理解してもらうことです。

つまり、自分がチームの中で果たす役割を自覚し、チームに欠かせない一員となることが大切なのです。人は、自分がビジネスに与える影響が大きいと思えば思うほど、仕事への当事者意識を持つようになり、会社の成功を自分の成功のように喜ぶことができるようになるのです。

 

2. ポジティブな企業文化を築く

世界屈指のコンサルティング・グループであるデロイトが実施した調査によると、従業員のモチベーションには、その企業文化が大きな鍵を握っています。「仕事に価値と充足感を感じている」と答えた従業員は、同時に「自分の企業が確固とした企業文化を持っている」と考えている割合が非常に高いという結果が出たのです。ヘイズのCEO、アリスター・コックスは LinkedInのブログの中で、「企業文化とは、すなわちその企業の人格であり、他社との差別化となる個性のようなものです。企業文化は、優秀な人材を惹き付けるとともに、どんな困難にも直面しようともその企業で働き続けたいと思う礎となるものです」と説明しています。

今回のコロナ禍で、企業文化の改善が従来よりも難しくなったのは確かです。しかし、こうした“異常事態”は、私たちの企業文化を考え直し、復活させていくための好機と言えるのかもしれません。今後はオフィスで働く従業員とリモートで働く従業員が混在するハイブリッド勤務が定着していくなかで、企業文化は状況に応じて必要な変化を遂げていかなければならないのです。

以下に、企業文化を維持し部下のモチベーションを向上させるために、管理職が考えるべき3つのポイントをお伝えします。

  • ウェルビーイング
    「燃え尽き症候群」に注意しながら、ウェルビーイングと心身のケアを大切にする習慣を作ります。働きすぎの兆候が出てきたら、ウェルネスプログラムの導入 を検討しても良いかもしれません。これらのプログラムの導入は、会社の競争力向上にも役立ちます。情報サービスのリーディングカンパニーであるExperian社は、オンラインでヨガのクラスをスタートさせています。とりわけ重要なのは、メンタルヘルスのケアに関するものです。そのようなプログラムが充実すれば、部下は疲弊することなく、モチベーションを維持してベストを尽くすことができるようになります。調査会社ギャロップ社が行った調査では、企業で働く労働者の53%が、ワークライフバランスやウェルビーイングの充実化が「非常に重要」であると回答しています。もちろん、管理職である皆さんにとっても重要なプログラムであることは言うまでもありません。

  • 思いやり
    ある調査では、管理職の5人に4人は「思いやりあるリーダーシップ」について誤解しているようです。「思いやりあるリーダーシップ」とは、単に「優しい」ことや「部下を愛する」ことではありません。メンバーのやる気を引き出すためには、必要以上に高圧的に接したり突き放したりすべきではないのは明白であり、部下の立場で考え彼らが成功し成長するための支援を行うなど、相手への共感力も必要です。思いやりのあるリーダーになるために必要な8のステップ についても詳しく説明している通り、思いやりのあるリーダーは、より共感力の高い文化を根付かせることも可能です。

  • ダイバーシティ 
    ダイバーシティの推進は、職場に現実の社会を反映させる手段として奨励されてきました。しかし、資産運用などの金融サービスを提供しているスタンダード・ライフ・アバディーン社のチーフ・エグゼクティブ、キース・スケオック氏は、「ダイバーシティは正しい行いであるものの、それ以上の意味をもっている」と語ります。また、さまざまな従業員が気負わずにありのままでいられる環境を作るためには、多様なバックグラウンドを持つ従業員を採用するインクルーシブな文化も必要です。ダイバーシティ&インクルージョンの文化が定着していけば、従業員は自分の考えや意見を躊躇せずに言えるようになります。つまり、多様な背景に支えられた、幅広い層の従業員の働きを大切にする企業文化が生まれるのです。自分が力を発揮できる環境におり、自身が注目されていると感じれば従業員はベストを尽くすべくモチベーションを高めていくでしょう。
     

3. 努力を認める

メンバーがチームに貢献したり目標を達成したら、公平に認めて感謝しましょう。臨床心理士として高名なフレデリック・ハーズバーグ氏は、これを「ハイジーン・ファクター」と呼んでいます。ハイジーン・ファクターとは、提供しなければモチベーションの低下につながる要因のことです。人間は自分が貢献したらこれを誰かに認められ、承認されたいものなのです。メンバーを認めることで、そのメンバーは上司であるあなただけではなく、会社全体とつながりを感じることになります。

また、メンバーが努力したら、最低限の報奨金を与えるなど、称賛の言葉以外の工夫もしてみましょう。素晴らしい成果を上げたメンバーを褒めることは、あなたのメリットにもなります。メンバーが自分の力を信じることができるようになり、優秀な人材の定着や誘引にも効果を発揮するからです。

ただし、メンバーを承認するときは、そのメンバーに適した認め方をしなければなりません。どのような形で相手を承認するかは、あなたのマネジメント能力にかかっています。大勢の前で大きな声で名前を呼ばれ、公式の舞台で表彰されることで気持ちが奮い立つ人もいれば、個人的に褒めてもらった方が嬉しいと思う人もいます。いずれにせよ、良い仕事を認めてもらうことが非常に嬉しいことは、誰にとっても同じです。

ハイブリッド勤務の導入は、従来の承認の在り方も変えていっているかもしれません。すべてのメンバーとの定期的な対面が難しくなる可能性もあります。そのため、メンバーを褒める時は、オフィス出勤者だけでなく、リモート勤務者も含め、全員に深く共感してもらうような工夫が必要です。例えば、リモートで働くメンバーを褒める時は、電話で個人的に感謝の意を伝えるよりも、簡単なチームミーティングを開いて、チームの前で表彰した方が効果的かもしれません。

Forbesが掲載した記事によると、「上司がいつも褒めてくれる」「改善の提案をしたときには認めてくれる」と答えた従業員は、全体のわずか24%に留まりました。 メンバーを褒めることは、決して大きな労力を要することではありません。それでも、部下を喜ばせることができる有効な手段の一つなのです。アリスター・コックスは、過去のブログで、次のように伝えています。「キャンベルスープ社のCEO、ダグ・コナン氏は30,000通もの感謝の手紙を直筆で書いて送ったと言われています。自分自身の方法で感謝を示す必要はあるでしょう。全員に毎日感謝の言葉を伝える必要はありません。感謝の気持ちを感じたときに、心からの謝意を伝えましょう。その時は、自分流に自分の言葉で伝えることが大切です。その方が力強く、より心に響くからです」。
 

4. 職場に学びと成長の機会を

メンバーのスキルアップに取り組むことは重要です。メンバーのスキルアップに力を入れることで、彼らがビジネスに大切な存在であること、あなたが彼らの将来性を買っていること、その仕事で成長の余地がまだあることを示すことができます。自分の成長を励まされ支援されることは、従業員にとって最高のモチベーションに繋がります。

LinkedInが行った調査によると、従業員の94%は「自分の成長や学習のために企業が積極的に動いてくれれば、その企業に長く勤務したい」と答えています。さらにヘイズが2019年に実施した調査でも、「優れたトレーニングを提供してくれる企業があれば転職したい」と、答えた回答者は22%に達しました。

トレーニングの内容を決める前に、部下のスキル評価を実施してみることをおすすめします評価を行えば、どのスキルが不足しているのかを特定でき、今後どのようなスキルが必要になるのかを検討することもできます。スキルには、仕事に直接関係するものもあれば、レジリエンスや順応力といったものも含まれます。トレーニングの計画は、十分に考え抜きましょう。そうすればメンバーは感謝し、モチベーションを高めていくと考えられます。トレーニングに充当する予算が少なくとも、現在はウェビナーやオンライントレーニングなど、無料で参加できるコースも豊富に存在しています。

企業は、従業員の成長を望んでいるはずです。International Journal of Hospitality Managementが掲載した調査によると、ホスピタリティ企業でトレーニングを実施すると、従業員のパフォーマンス向上や満足度の上昇だけではなく、事業コストの削減にもつながることが明らかになりました。つまり、従業員のスキルアップは、従業員のみならず、会社にとってもメリットになるのです。トレーニングには投資の価値があることが明白です。

 

5. キャリアパスの明確化

トレーニングやウェビナーを用意するだけでは不十分です。プロフェッショナル人材に高いモチベーションを維持してもらうためには、ビジネスの過程で彼らがキャリアップしていけると明確に理解・実感してもらう必要があります。

世界的な人材コンサルティング企業であるアディソン・グループは、最近発行した調査報告書で、4人のうち3人が昇進の機会を逃したために転職活動をしていると発表しました。これは「上司への不満」や「働く環境や企業文化への不満」を上回る結果でした。

このような不満を解消するためには、部下に昇進プランを明確に示すことが必要です。定期的に部下と面談し、彼らがチームの中でどのように働いていきたいのか、また、どのように昇進していきたいのかなどを話し合うことが求められます。メンバーがどのような希望を持っているかをオープンに話し合い、実現のために何をすれば良いのかを一緒に話し合いましょう。そうすれば人材の定着率も改善するに違いありません。時間を割いて部下のキャリアに大切なことを話し合うのは、非常に価値があることです。

予算の都合や希望のポジションに空きがないなどの理由で、メンバーの願いを叶えられないこともあるでしょう。そんな時は、裁量権の拡大や、発言できる範囲の拡充により、メンバーの希望を満たすことができるかもしれません。 昇進だけが有効な方策とは限りません。メンバーのキャリアを長期的に考えて、一般職から技術職に転身するなどの水平的な異動も、昇進同様に効果があるといわれます。新しい分野への挑戦や、不足しているスキルの習得によって、メンバーは再びやる気をもち始めるかもしれません。これが将来のキャリアアップに発展する可能性もあるのです。

いずれにせよ、広くチャンスを与えられることで自分の努力が報われていることを実感すれば、メンバーのモチベーションは高まります。
 

部下のモチベーションに優先的に注意を払う

必ずしも金銭的な報酬だけが士気の向上につながるわけではありません。それ以上に効果的なモチベーションは、数多く存在するのです。

ビジネスに即したモチベーションの方法を見つけておけば、あなたの力になってくれる意欲の高いチームを作ることができるでしょう。

チームマネジメントに関連する情報

 
業界や勤務地などで検索可能。気になった求人は、ワンクリックで応募・問い合わせできます。

お名前とメールアドレスで簡単登録。職務経歴書をアップロードすると、コンサルタントへのキャリア相談や求人紹介、面接アドバイスなどが利用できます。

転職をお考えの会員様は、職務経歴書の最新版をアップロードいただくと、未来のキャリアを見据えたサポートやご提案が可能です。

 

著者

マーク・ブラジ
リージョナル・マネージング・ディレクター
2022年にアジアのリージョナル・マネージング・ディレクターに就任。
2012年に香港のリージョナルディレクターとしてヘイズに入社。2014年には、ヘイズ・タレント・ソリューション事業の責任者を担当し、2015年にヘイズ・ジャパンのマネージング・ディレクターに就任。正社員や役員、派遣社員、契約社員の紹介、オンサイトソリューションなど、あらゆる専門分野における日本事業のオペレーションと成長の責任を担った。
イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、アジアでビジネスをリードし、成長させてきた実績があり、幅広い業界と職種に関する専門知識を有している。人材業界の前は、自動車業界にてさまざまな営業やマーケティングのマネジメントを務めていた。ビジネス改革とチェンジマネジメントの経験が豊富で、機能横断的なチームの構築、育成、指導に長けている。また、ニュージーランドリーダーシップ研究所の理事を務め、アッシュブリッジビジネススクールで戦略を学んでいた。